サイパン人の良識
太平洋戦争終結60年の節目の年だった平成17年(2005年)、今上陛下と皇后陛下によるサイパンへのご訪問が決定します。かねてから中部太平洋地域にて戦没者を慰霊したいとの御希望があり、ようやく実現の運びとなったわけです。
サイパンは昭和19年(1944年)の戦闘において、追い詰められた日本兵や民間人が、アメリカ兵からの投降勧告に応じることなく崖下の海に身を投じて自決したバンザイクリフ(プンタンサバネタ)やスーサイドクリフに代表される激戦地でした。
戦闘では日本兵、在留日本人55,000人以上、アメリカ兵3,500人以上、現地チャモロ人900人以上が死亡したと言われています。
▲悲劇の舞台となったバンザイクリフ
ところが、両陛下のご訪問に反対する意見が出てきました。サイパン在住の韓国人です。その理由は、両陛下が「過去に日本が占領した地域で軍国主義を追慕するため」のご訪問だから、とのこと。
もはやとんでもない理屈ですが、この発言をしたキム・スンベク サイパン韓国人会会長はさらに突っ走ります。
「訪問を完全に防ぎたかったが、現実的に不可能なので代替策を探した」結果、サイパン韓国人会事務所前に横断幕を掲げました。その内容は太平洋で犠牲になった韓国人に謝罪して慰霊祭を行えという激烈なものでした。
挙句にサイパン在住韓国人によるデモ隊が出てくるらしいという噂まで広がる始末。
この状況で立ち上がったのがサイパンの現地人だったのです。サイパンでショッピングセンターや車屋、ホテル、ベーカリー、保険業などを多角的に経営するジョーテン・エンタープライズ社の創業者ジョーテン氏の夫人ダイダイさんが横断幕に対して猛烈に抗議します。現人神たる陛下が島においで下さるのに、韓国人はなんと失礼なことをするのか、と。
そしてチャモロとカロライナの先住民に対して韓国の企業をボイコットするように呼びかけたのです。
▲サイパンでスーパーといえばジョーテン
地元紙を巻きこんで、呼びかけはまたたく間に広がったため、サイパン韓国人会は横断幕を下ろすしかありませんでした。ご訪問当日には「 サイパン韓国人会は、天皇夫妻を歓迎する」という声明をしぶしぶ発表。
この一連の動きに対して、抗議に反発した日本人の観光客が減るのを防ぐための現地人の打算的な行動だ、といううがった見方もあるようですが、実際に現地での両陛下の歓迎ぶりを見る限りではそれはなさそうですね。
両陛下は予定通りサイパンに到着され、バンザイクリフやスーサイドクリフ、「中部太平洋戦没者の碑」、チャモロ人など現地人900人を慰霊する「マリアナ記念碑」、サイパン島とテニアン島で戦死した米兵約5,000人を慰霊する「第二次世界大戦慰霊碑」などを予定通り廻られました。
さらに当初の発表には無かった「おきなわの塔」(琉球政府が沖縄県出身者のために建立)と「韓国平和記念塔」にも立ち寄られ拝礼されました。
あえて発表しなかったのは、慰霊の場に余計な議論を発生させたくないというお気持ちからでしょう。
ともあれ、このサイパンご訪問は現地人の声が上がらなければ、酷い状況になっていたかもしれません。それゆえにもサイパン現地の人々の気持ちと行動には感謝したいものです。
参考:青梅市トライアスロン協会(http://www.kfctriathlon.jp/html/home.html)
ABC Radio Australia(http://www.radioaustralia.net.au/international/2005-06-24/call-to-boycott-korean-businesses-in-saipan-over-planned-protest/766522)
Guam Business(http://www.guambusinessmagazine.com/docs/Joeten.pdf)
朝鮮日報(http://www.chosun.com/national/news/200506/200506270180.html)
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