陛下に謁見する機会
今上陛下にお目通りをいただくことを拝謁と言いますが、行幸の際に沿道でお見かけするならまだしも、面と向かって対面いただくとなると、なかなかそんな機会はありませんよね。どんな人が拝謁の機会を得ているのでしょう。
▲拝謁
(画像引用:宮内庁)
天皇陛下のご公務のひとつに「人と会う」というものがあります。外国の王族や要人とのご会見、ご引見であったり、内外の要人をお招きになりお茶や昼食会を催すこともあります。
他に内閣総理大臣や国務大臣の内奏と呼ばれる報告のための拝謁や、陛下へのご講義などで専門家をお招きになるご進講などもあります。
では、一般の人が拝謁する機会はあるのでしょうか。
一番機会を得やすいとなれば、やはり皇居勤労奉仕に参加してご会釈の機会に浴すことができれば、それが最も身近な方法かもしれません。
しかし、ご公務とはいえ、毎度さまざまな人と入れ替わり立ち替わりお会いせねばならない陛下の御苦労は大変なものであろうとお察しします。ご公務の間を縫って行われるだけに、1回あたりの時間にするとわずかでも、数があるためかなりの頻度になるわけです。
即位20年の折に宮内庁が発表した資料によれば、平成20年(2008年)までに今上陛下は主な拝謁やお茶などを775件もの回数こなされており、拝謁人数はなんと390,528人にのぼります。これは驚きです。平均すると毎年2万人ですから、相当な数ですね。
▲皇居
ひとつ平成24年(2012年)10月を例に取ってみましょう。
10月1日…人事異動者拝謁
2日…勤労奉仕団ご会釈
3日…勤労奉仕団ご会釈
5日…ロンドンパラリンピック入賞選手等との茶会
10日…人事異動者拝謁、日本芸術院第二部部長、芸術院第二部会員とのお茶、米国連邦議会上院仮議長とのお茶
11日…勤労奉仕団ご会釈
12日…赴任大使拝謁
16日…勤労奉仕団ご会釈
19日…全国警察本部長等拝謁、勤労奉仕団ご会釈
20日(皇后陛下誕生日)…元長官、元参与、元側近奉仕者、元御用掛、松栄会会員等、ご進講者等との茶会
23日…勤労奉仕団ご会釈
26日…赴任大使拝謁、勤労奉仕団ご会釈
29日…新嘗祭献穀者ご会釈、エディタ・グルベローヴァとのお茶
30日…勤労奉仕団ご会釈
31日…新嘗祭献穀者ご会釈、新任外国大使夫妻とのお茶
これだけあるのです。当然これ以外のご公務も目白押しで、マレーシア国王歓迎行事や宮中晩餐会、記念会合へのご臨席、国会開会式、内奏をはじめ、さらにこの月には山梨県への行幸啓と東日本大震災被災地ご訪問も行われています。
実に頭が下がる思いです。
一般の人、と言っても功労者などの限られた人になりますが、叙勲や褒章を受けて陛下に拝謁することもできます。叙勲は国や公共への功績を称えて国から勲章を授かる表彰の制度で、褒章は特定の社会的分野における実績や徳行に対しての表彰です。
▲閣議
(画像引用:首相官邸)
叙勲や褒章は突如決定されるわけでなく、関係機関による査定や推薦を経て閣議決定されます。受賞する本人にも内示があり、特に問題がなければ親授式ないし伝達式という流れになります。
地方から上京する場合は前日にホテルに入り、ヘアメイクや受章記念写真の予約確認をしたり、叙勲・褒章受章展示場で記念品を選んだりする人が多いようです。ホテルも慶祝ご宿泊プランを用意しているところがあります。
当日は服装規程(昭和39年総理府告示16号)があり、男性はモーニング、女性は色留袖かアフタヌーンドレスを着用します。
勲記・褒章の記・勲章を伝達式にて受け取るのですが、伝達式の会場は省庁によってバラバラです。おおよそ午前10時くらいから各省大臣や都道府県知事の手で行われます。昼食後、バスで皇居へ向かい、拝謁となります。
▲親授式
(画像引用:宮内庁)
また、 重光章の受章者の伝達式は宮殿・松風の間で挙行され、それから陛下との拝謁に続きます。拝謁は豊明殿が式場になります。
大綬章以上の勲章の授与式を親授式と呼び、親授式は宮殿・松の間で挙行されます。陛下から受章者に直接勲章が授与され、引き続き内閣総理大臣から受章者に勲記が伝達されます。そのまま拝謁と続きます。
さらに陛下に拝謁できる機会として有名なものが園遊会です。秋に催されているほか、昭和40年(1965年)からは春にも開催されている陛下主催の屋外での社交会のことで、赤坂御苑で挙行されます。
皇族の方々のご列席をはじめとして、内閣総理大臣、国務大臣、両院議長など三権の要人や地方公共団体の首長、各界の功労者や著名人と、配偶者を含めて毎回2,000人以上が招待される大規模な野宴です。
なんといってもこの大人数ですからどうしても人垣になってしまいますが、それでもすぐ間近で今上陛下をはじめ皇后陛下、徳仁親王殿下、文仁親王殿下をお目にできます。
▲秋の園遊会
(画像引用:宮内庁)
園遊会にはメディアの取材も入るので、ちょっとしたエピソードも漏れ来るものです。
平成24年(2012年)秋の園遊会では大勢の招待客とお言葉をお交わしになる中、声優の加藤みどりさんは「サザエでございます」とあの掛け声で陛下に自己紹介。両陛下は微笑みながら、加藤さんの言葉に頷かれます。ひと通り挨拶のあと、加藤さんは「両陛下はアニメなどご覧になりますか」と逆に質問を返しました。
陛下はご自身のご発言が世間や関係業界に波及し、影響を与えることを第一に危惧されるため、この質問に対して明確な回答はお避けになりましたが、加藤さんの番組に対する意気込みに対して「どうぞ体を大事にしてね。元気で」とお励ましになられます。
続いてご歓談された徳仁親王殿下は「一家で見ていますよ」、文仁親王殿下も「見てますよ」とお優しくフォロー。加藤さんにとってきっと忘れられない日になったことでしょう。
同年春の園遊会の様子は台湾で大きく報道されました。それもそのはず、40年ぶりに台湾の代表が陛下に拝謁したからです。
台北駐日経済文化代表処の馮寄臺(ひょう・きたい、フォン・ジータイ)駐日代表夫妻は「私が台湾の駐日代表です」と陛下に挨拶。
それを受けて陛下は「台湾は東日本大震災で日本に大きな援助をしてくださり感謝しています」と187億4千万円(平成24年(2012年)3月16日台湾外交部発表)にも及んだ台湾からの義捐金や救援に対するお言葉を返されます。
▲台湾の赤十字とテレビ各局が行った
東日本大震災チャリティーイベント
馬英九総統も視聴者からの義捐金支援
の電話に直接応対した
(画像引用:AP)
日本は中華人民共和国の国交樹立により台湾(中華民国)との日華平和条約が失効し、昭和47年(1972年)国交を断絶。
国交断絶し、40年経って初めて交わされた日本の象徴である存在の陛下と台湾代表の会話が「謝意」だったというのは非常に感慨深いものがあります。
政治的には未だ台湾を独立国と認めていない日本ですが、政治の手が届かないところにお気を配してくださる陛下の一面を垣間見ることができた園遊会でした。
参考:宮内庁(http://www.kunaicho.go.jp/)
みどりイワサキ会(http://www.jokun.com/)
産経ニュース 皇室ウィークリー2012年10月27日付
(http://sankei.jp.msn.com/life/news/121027/imp12102707010001-n2.htm)
外務省(http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/taiwan/pdfs/kankei.pdf)
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