さりげないお気づかい
平成19年(2007年)5月、今上陛下と皇后陛下は北欧「スウェーデン」と「バルト3国」、英国をご訪問されました。スウェーデンと英国ご訪問はスウェーデン出身の生物学者カール・フォン・リンネ(Carl von Linné)生誕300年記念行事への招待によるものでした。
リンネは動植物の情報を整理して分類表を作り、著書「自然の体系」(Systema Naturae)により体系化したことから「分類学の父」とされる人物です。今上陛下はリンネ協会の名誉会員でもあります。
▲皇后陛下がお抱えになっている花に注目
画像引用:The Japan Times
スウェーデンでは3泊され、リンネ生誕300年記念行事をはじめ、国王王妃とのご会談、晩餐会、王立科学アカデミーご訪問、自然史博物館ご視察などのスケジュールをこなされました。
左のスウェーデンご滞在中のワンショットをご覧ください。手をお振りになる今上陛下のそばで、にこやかに陛下をお眺めになる皇后陛下のお姿です。
胸元にお抱えになっていらっしゃる花の色に注目してみましょう。青色と黄色の花束です。この色の組み合わせは偶然このようになったのでしょうか?
▲スウェーデン国旗
この色、実は訪問国スウェーデンの国旗の色なのです。スウェーデンご滞在中にスウェーデンの国旗の色の花をお持ちになる、これはもちろん偶然なんかじゃありません。
スウェーデンご滞在のあと、両陛下はそのままバルト3国のひとつ「エストニア」を訪れになります。わたしたち日本人にはあまりなじみのない国ではありますが、それもそのはず、その当時バルト3国の国賓に会ったことがある閣僚は麻生太郎外務大臣(当時)だけだったのです。政府ですらほとんど接点がないのですから、我々国民の認識はまして、という感じでしょう。
いわゆる国益重視の政府(国益を重視するのはもちろん大切です)とは違った視点でバルト3国をあえてご訪問国に選ばれた宮内庁の見識の高さは称賛モノです。
エストニアで両陛下はトーマス・ヘンドリク・イルヴェス大統領と会談され、エストニア国民とも交流を持たれました。
大統領夫妻とのご会談でのひとコマ。皇后陛下の衣装に注目してみましょう。青色、白色、黒色の3色の装いをされています。もうお分かりですね。エストニアの国旗の色です。
▲エストニア国旗
エストニア国民との交流は「歌の広場」で行われました。ここは「エストニア歌とダンスの祭典」が5年に1回開催される広場で、祭典はエストニアを代表するお祭りのひとつ。この日も広場には8,000人もの国民が集まり3,600人ものコーラスで両陛下を歓迎しました。
▲ラトビアでの両陛下
翌日、両陛下はお隣の国「ラトビア」にお入りになられました。こちらでもヴァイラ・ヴィーチェ=フレイベルガ大統領とご会談され、自由の記念碑での供花と国民との交流のお時間を持たれました。
そのあと占領博物館とラトビア大学をご視察されます。
その際の皇后陛下の装いは白地に海老茶のアクセント。そしてラトビアの国旗の色も、もちろん同じ色です。
▲ラトビア国旗
翌日は「リトアニア」にお立ち寄りになります。リトアニアは第2次世界大戦中にナチス・ドイツの迫害から逃れたユダヤ人難民に対して外務省の方針に反し日本通過のビザを発行し続け、6,000人もの命を救った杉原千畝(すぎはらちうね)が領事代理として滞在した土地です。リトアニア、ビリニュス市には「スギハラ通り」があり、彼がビザを発給した旧日本領事館も「杉原記念館」として保存されています。
リトアニアに到着された両陛下はヴァルダス・アダムクス大統領夫妻と会談され、アンタカルニス墓地にご供花、続いて杉原の母校であった早稲田大学が設置した「杉原記念碑」にもお立ち寄りになられました。
リトアニアご滞在中の皇后陛下はやはり胸元にリトアニアの国旗の色である緑色、赤色、黄色をモチーフにされた花飾りを付けていらっしゃいました。
▲リトアニア国旗
事前に衣装や小物を訪問先の国に合わせてご用意されるお気づかいのこまやかさ。何も知らない人が見れば単なるファッションでしかありませんが、自国旗に慣れ親しんだ現地国民が一目見ればすぐにそのお気づかいに気が付くでしょう。
日本のEmperorとEmpressがわたしたちの国に親しみを持ってくださっているという外国の人たちの気持ちの集合が成長し、ひいては「外国人が親しみを持つ日本」となっているのは、まことにありがたいことです。
参考:宮内庁(http://www.kunaicho.go.jp/)
宮崎正弘の国際ニュース・早読み(http://melma.com/backnumber_45206_3793286/)
タディの国旗の世界(http://www.worldflags.jp/)
lrytas.lt(http://www.lrytas.lt/?id=11801681461180158718&view=4)
ブログ版:春日井教育サークル(http://take-t.cocolog-nifty.com/kasugai/)
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