今上陛下のエピソード

陛下とさかなクン

今上陛下

ハゼの研究をお続けになられている今上陛下。そして魚類研究の世界では一目置かれる存在となっているさかなクン。同じフィールドでの活躍ではありますが、接点となると、「ん?」と首を傾げてしまいますよね。
ところがやはりと言うべきでしょうか、実はこんなエピソードがありました。


カブトガニ
▲カブトガニ

さかなクンは囲碁棋士の宮沢吾朗(みやざわごろう)氏を父に持ちますが、囲碁の世界ではなく、魚類の世界に進んでいきます。その大きなきっかけとなったのが中学生のときに成功したカブトガニの人工孵化なのでした。

学校の水槽で飼っていたカブトガニを「水槽が狭くてかわいそう」という理由で定期的に外に出していたところ、それをカブトガニが潮の満ち引きだと勘違いしたのが人工孵化成功の理由なんだとか。

高校3年生の時にテレビ東京系TVチャンピオンにおいて「第3回全国魚通選手権」で準優勝したのがTVへの初進出。
その後は専門学校、アルバイトを重ね、魚の絵の上手さと豊富な知識、個性的ないでたちなどから再びTVに顔を出すようになります。「ギョギョ~」の口癖とハコフグの被りものは彼のトレードマークです。
ついには平成18年(2006年)、さかなクンは東京海洋大学客員准教授に就任したのでした。

さかなクン
▲さかなクン。
頭のハコフグがトレードマーク
(画像引用:福島県環境共生課様
http://wwwcms.pref.fukushima.jp/)

そして本題。
平成21年(2009年)の話です。10月にさかなクンが働く東京海洋大学品川キャンパスにおいて日本魚類学会の年会が開かれました。学会ではさまざまな研究発表がおこなわれ、さかなクンも熱心に聴講します。

そこにお見えになったのが、陛下でした。学会へのご出席は3年ぶりとのことで、大講義室にて2時間にわたり聴講されます。ついで、別室でポスターによる発表展示をご覧になられました。

事態が動くのはそのあとの懇親会。約400名もの参加者のなか、さかなクンも陛下にお目通りを果たします。さかなクンが学会資料に魚の絵を描いたことに触れ、陛下がページをめくりながら「あなたが描かれたんですね」とお返しになり、子供への魚の啓蒙活動に感心されるなどのやりとりが交わされました。
頭のハコフグに関しては一切スルーされたようです(笑)

ポスター展示をご覧になられる陛下
▲ポスター展示をご覧になられる陛下
(画像引用:国立大学法人東京海洋大学様
http://www.kaiyodai.ac.jp/)

懇親会後のメディア取材では「緊張しました」を連発したさかなクン。
しかし、陛下とのエピソードはもちろんこれだけでは終わりません。

さて、秋田県田沢湖にはかつて生息していたクニマス(国鱒・Black kokanee)という魚があります。生息していた、というのは1940年頃に絶滅したとされていたからです。
原因は開発による環境悪化でした。水力発電所で使用する水の供給のために塩酸を含む毒性の強い玉川の水を田沢湖に流入させたことで、pHが4.8前後と急速に酸性化し、クニマスは死に追いやられたのでした。

平成22年(2010年)、京都大学の魚類学の教授である中坊徹次(なかぼうてつじ)氏がさかなクンにある依頼を申し出ました。
それはクニマスのイラストを描いてほしいというもの。さかなクンは快く許諾し、しっかり描かねばと、資料を収集し始めます。

クニマスの標本
▲クニマスの標本
(画像引用:京都大学魚類学研究所)

とはいえ実物のクニマスを入手することはできません。さかなクンは近似種である「ヒメマス(姫鱒・kokanee)」を全国から取り寄せました。

ところが、山梨県の富士五湖のひとつ西湖から取り寄せたヒメマスが、どうも変なのです。ヒメマスのはずなのに、見れば見るほどクニマスのようなのです。
さかなクンは中坊教授にその旨を報告。早速、京大では遺伝子学や解剖学による分析が行われました。

結果は、ビンゴ。この個体はヒメマスではなく絶滅したはずのクニマスであることが判明しました。さかなクン大手柄です。
実は1935年ごろに田沢湖からクニマスの受精卵が西湖に持ち込まれていたこともわかりました。
西湖では結構頻繁にクニマスが釣れていたのだそうですが、地元では「クロマス」と呼ばれ、歯牙にもかけられなかったのだそう。

クニマスの絵を掲げるさかなクン
▲クニマスの絵を掲げて
発見の経緯を発表するさかなクン
(画像引用:東京新聞2010年12月24日夕刊)

このニュースにより、西湖ではクニマス保護のため自主禁漁区を設定するなどの保護策を実施。
また元来の生息地である田沢湖も一層の水質改善を進め、将来的にはクニマスの里帰りをする計画も予定されています。

クニマス再発見のニュースから1週間後の12月22日。翌日の天皇誕生日を控えて、陛下が例年恒例のおことばを発表されました。

そのなかで、一年を振り返っての晴れやかなニュースとして、根岸英一氏、鈴木章氏のノーベル化学賞受賞と、小惑星探査機「はやぶさ」が小惑星「イトカワ」に着陸したことを挙げられ、その流れで、陛下の専門であられる魚類学へと話が移ります。

陛下は次のようにお述べになりました。
「この生物多様性年(2010年は国連が定めた国際生物多様性年でした)も終わりに近い頃、日本の淡水魚が1種増えました。それは、最近新聞などでも報じられたクニマスのことです。
(中略)本当に奇跡の魚(うお)と言ってもよいように思います。クニマスについては、私には12歳の時の思い出があります。
この年に、私は、大島正満博士の著書「少年科学物語」の中に、田沢湖のクニマスは酸性の水の流入により、やがて絶滅するであろうということが書かれてあるのを読みました。そしてそのことは私の心に深く残るものでした。

それから65年、クニマス生存の朗報に接したわけです。
このクニマス発見に大きく貢献され、近くクニマスについての論文を発表される京都大学中坊教授の業績に深く敬意を表するとともに、この度のクニマス発見に東京海洋大学客員准教授さかなクン始め多くの人々が関わり、協力したことをうれしく思います

それを受けて、さかなクンは「たくさんの人の力と自然の条件に巡り合った。人知れず生きていたクニマスに、すごく感動した」「感慨無量です」と率直に喜びを表現しました。

いずれ、さかなクンは園遊会にも招かれるのでは?との前評判もあり、実現すればまた新たなエピソードが加わるのかもしれません。

参考:国立大学法人 東京海洋大学
(http://www.kaiyodai.ac.jp/topics/2101/13322.html)
J-CASTニュース(http://www.j-cast.com/2009/10/17051854.html)
宮内庁(http://www.kunaicho.go.jp/okotoba/01/kaiken/kaiken-h22e.html)


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