昭和天皇のエピソード

建て替えられなかった御所

昭和天皇

太平洋戦争中、昭和天皇は皇居内の明治宮殿に住まわれていました。明治宮殿はその名の通り、明治21年(1888年)に落成した建物で、和風の外観に洋風の内装の和洋折衷スタイル。
また昭和11年(1936年)に建て替えられた宮内省第2期庁舎には「防空室」と呼ばれる部屋がありました。いわば地下金庫室で、昭和天皇と香淳皇后は米軍による空襲の警報が発令されると、宝剣神璽(ほうけんしんじ・三種の神器のうち剣と印)を持ってこの中に避難されたそうです。

明治宮殿

しかしながら昭和16年(1941年)、「防空室」は狭い上に大型の爆弾に耐えうる設計ではなかったため、新たに防空施設を造ることになりました。
そして2年後の春、施設は完成し、御文庫(ごぶんこ)と名付けられます。
昭和天皇は午前中は表御座所で政務をされ、午後はこの御文庫でお過ごしになるようになりました。


御文庫の広さは1,320㎡。平屋建築ですが、地下1階と地下2階があり、両陛下の居住スペースのほかに侍従たちの部屋や映写室、ピアノ、ビリヤードなどがあったそうです。1トン爆弾に耐えうるよう、屋根の厚さはなんと3m。コンクリート層、砂層、コンクリート層の3層構造をしていました。

御文庫▲1950年代の御文庫

戦局が悪化するにつれ、御文庫ですら危ないということになり、御文庫のそばに新たな防空壕を造ることになります。御文庫附属室です。
附属室は地下10mのところにあり、広さは330㎡。会議室が2つと控室、機械室があって、それぞれ1mもの幅の鉄筋コンクリートの壁で仕切られていました。昭和20年(1945年)の6月ごろ完成したといいます。
御文庫附属室は50トン爆弾に耐える能力を持ち、御文庫も6トン爆弾に耐えられるよう補強されました。

附属室の完成に先立って昭和20年(1945年)5月、米軍機B-29が250機来襲し、焼夷弾を投下しました。これにより東京では16万戸が全焼し、皇居も大きな被害を受けます。大小27棟もの明治宮殿も全焼。その知らせを聞いた陛下は「そうか、焼けたか。これでやっとみんなと同じになった」とつぶやきました。

翌日、その焼け跡を昭和天皇がご覧になります。同行した警衛局長が焼失を詫びますが、陛下は「戦争のためだからやむを得ない、それよりも多数の犠牲者を出し、気の毒だった。残念だったなあ」とおっしゃったそうです。
以降、やむを得ず宮内省第2期庁舎を仮宮殿とし、政務はそちらで、居住は御文庫という状況になりました。

宮内庁庁舎
▲宮内省第2期庁舎(現宮内庁庁舎)
画像引用:グルメのけんちゃん
(http://blog.goo.ne.jp/logfuji)

広島、長崎に原爆が投下されるといよいよ皇居にも原爆投下されるのではという憶測も流れ、両陛下は地下の御文庫附属室へ避難されます。そして8月9日と14日に御前会議が開かれたのもこの場所。

そして終戦。東京は一面の焼け野原でした。町の復興もすぐには進みません。同様に皇居もまた宮殿が焼失してしまったため、両陛下は御文庫での生活が続いていました。

しかし、この御文庫、爆弾の飛来を想定して建造したのはいいものの、天井に詰めた砂は建設当時雪が積もっていた砂をそのまま詰めてしまっていて、溶けた水が何年も経ってからコンクリートから浸み出してぽたぽたと落ちてくるありさまでした。
同じく御文庫附属室は地下深くにあったため、そこから伝ってくる湿気も酷いものだったといいます。スーツを吊るしておくと一両日のうちに湿ってしまったのだとか。

こんな場所に陛下を住まわせてはおけない、と侍従は御所の新造を提言しますが、陛下は「世の中には住む家の無い人もあるのに、私にはこれだけのものがあるのだから」とあっさり却下

では、せめて修理を…と、調査してみれば天井裏からなんとドラム缶2本半もの水が出てきたのです。
これはいかんと再三にわたり陛下に新造を奏上するも、やはり陛下の答えはNOでした。

そして日本は戦後の混乱期を乗り越え、高度経済成長期を迎えます。昭和34年(1959年)皇太子殿下(今上陛下)御成婚で世間はミッチー・ブームに沸きますが、そのときですらなおまだ両陛下は御文庫にお住まいになっていました。

結局それからさらに2年、終戦から丸16年経過してようやく新たに建てられた吹上御所にお移りになったのです。

吹上御所と御文庫
▲吹上御所(手前)と御文庫。昭和天皇崩御後は香淳皇后(皇太后)がお住まいに

吹上御所は延べ1,504㎡。鉄筋コンクリート2階建ての洋風建築で「こんないい家に住めるようになったのもみんな国民のおかげだ」とこの年に還暦を迎えた陛下はおっしゃったのだそうです。


参考:黒田裕樹の良くわかる歴史講座(http://ywhc.ken-shin.net/siryou.html)
ネットジャーナル「Q」(http://www2u.biglobe.ne.jp/~akiyama/)
小林よしのり著 幻冬舎刊「ゴーマニズム宣言SPECIAL 昭和天皇論」


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