今上陛下のエピソード

皇室と海

今上陛下

七月第三月曜日は「海の日」です。この海の日は比較的新しい国民の祝日で、平成8年(1996年)から施行されました。元来7月20日を「海の記念日」としていましたが、祝日法(国民の祝日に関する法律)により祝日に格上げされた形になります。


明治丸
▲復元展示されている明治丸
(画像引用:国立大学法人東京海洋大学)

国民の祝日はその名の通りの天皇誕生日(12月23日)や昭和の日(4月29日)など皇室に由来するものがいくつもありますが、海の日もまたやはり皇室由来の記念日です。

明治天皇の東北地方行幸の帰路、汽船「明治丸」で7月20日に横浜港に御着された史実をもとに、この日に制定となりました。

海洋基本法によると「国及び地方公共団体は、国民の祝日に関する法律(昭和23年法律第178号)第2条に規定する海の日において、国民の間に広く海洋についての理解と関心を深めるような行事が実施されるよう努めなければならない」とあります。

海洋に関する行事にはさまざまがありますが、海の日を中心として開催されるものが海フェスタです。船の一般公開や体験航海、マリンスポーツなどの海にまつわるイベントを開催しており、平成15年(2003年)の第1回より文仁親王殿下、妃殿下がご臨席されています。
なお、それ以前の開催分は「海の祭典」と呼ばれ、昭和61年(1986年)に初回が催され、以降17回の開催記録がありますが、そのうち14回に文仁親王殿下がご臨席されています。

海フェスタおのみち〜海の祭典2012尾道・福山・三原〜
▲平成24年(2012年)開催の
海フェスタおのみちの様子
(画像引用:尾道市海フェスタ推進室)

皇室に縁が深い海に関する行事といえば、忘れてならないのが全国豊かな海づくり大会。海の祭典よりさらに以前の昭和56年(1981年)から始まりました。
海フェスタが国民の船舶と海への関心の促進を主眼にしているのに対して、こちらは漁業資源と海洋環境の保全をメインにしていますので、同じ海に関する行事でも目的が異なります。

全国豊かな海づくり大会は今上陛下と皇后陛下が行幸啓されることでもおなじみの行事です。行幸啓が毎年の恒例となっているものはこの大会のほか、全国植樹祭国民体育大会があります。この三つを「皇室三大行事」と呼ぶ人もいますね。

今上陛下は魚類学者であられますので、ことにこの全国豊かな海づくり大会とは縁が深く、さまざまなエピソードが伝わっています。平成19年(2007年)に琵琶湖で開催された第27回全国豊かな海づくり大会でのブルーギルについてのおことばは、過去にもこちらでも紹介いたしました。

上陸直後の台風13号
▲上陸直後の台風13号

今回ご紹介したいのは、平成18年(2006年)に開催された第26回佐賀大会です。
10月28日に皇居を御発された両陛下は、佐賀県入りをされてまず県庁をご訪問されます。古川康(ふるかわやすし)佐賀県知事は4日間にわたる行幸啓の案内役となり、両陛下に同行してその感想を後日述べています。
折しも、その行幸啓の前月、九州には台風第13号が上陸し、死者・行方不明者10人、重傷者35人、家屋の全半壊673棟という大きな被害が発生していました。

「この4日間で一番印象が残っているのは、何より両陛下の災害に対するご配慮なんです。一番最初の日に(中略)飛行場から市内に来る途中の大豆や稲というような、塩害でやられていたということだとか、街路樹が南の方、南に向いているのがやられている。北に面しているものは葉っぱが残っているというふうなことにもお目を留められまして、やはり塩害がひどいですねというようなお話からスタートだったんですね」

塩害にやられた稲 ▲塩害でやられた稲(画像引用:広津もと子web site)

また両陛下は初日に特別養護老人ホーム「つぼみ荘」をお訪ねになって、語らいを持たれています。行幸啓が施設暮らしのお年寄りにとってどれほどの活力となったか計りしれません。

そして休む間もなく全国豊かな海づくり大会のレセプションにご臨席されます。翌日は大会の式典でおことばを述べられ、そのくだりでも伊万里市で亡くなった人たちへの弔意をお示しになられます。

全国豊かな海づくり大会
▲全国豊かな海づくり大会の式典
(画像引用:宮内庁)

式典の後は東与賀町(現・佐賀市東与賀町)の干潟「千潟よか公園」に会場を移し「ムツゴロウ」の稚魚を放流されたほか、ノリの元種をお手蒔きされました。次いで、佐賀城本丸歴史館をご視察され、さらに翌日はお召し列車で唐津に行幸啓になられます。
古川康佐賀県知事はまた次のように語っています。

「東与賀町役場や唐津市役所で会食した時にも、そういう(台風13号の)被害の話が出ましたし、また今日、唐津から佐賀にお召し列車で、鉄道で戻ってこられたんですけれども、途中で岩屋駅あたりで、唐津市の湯屋、田頭地区というところで土石流があったんですけれども、その痕跡が見えるんです、車中から。
その説明をしてくれということで呼ばれまして、あそこに見えるのがそうですというお話をさせていただきました。最初から最後まで災害へのご配慮というものを感じたというのが非常に印象的だったですね。」

海洋資源と環境保全をテーマにした全国海づくり大会にて、その重要性を国民に啓蒙するという非常に大切な役割をきっちり果たされるだけにとどまらず、訪れになる場所場所で、謁見する人それぞれに、台風被害に対して温かい労いとはげましのおことばを絶やさずお掛けになる陛下。
この行幸啓で佐賀県民はどれだけの力をいただいたことかと思います。

いまさら、という感じもしますが、ここで本筋とは離れた嫌な話をせねばなりません。この行幸啓に先だって行われた県知事の記者会見のことです。詳細は佐賀県庁のサイトに記録がありますので、そちらをご覧いただければと思いますが、この会見での毎日新聞の記者の質問と態度がとんでもないものでした。

態度云々は問わないにしても、「財政が逼迫している時勢に金銭を使って大会に皇族を呼ぶべきではない」という質問の内容には唖然とさせられます。
この記者の思想信条はともかく、大会に皇族を呼ぶという前提がおかしいのですね。この大会は先述の通り第1回大会から両陛下の行幸啓あっての大会なのです。大会の誘致は喜んでしますが、皇族には来てくれるなという発想がすでにねじ曲がっています。
財政難ゆえに大会の誘致すら苦々しいのならば、それを誘致前に会見場で問えばいいわけで、ネタになればなんでもいいとばかりに、行幸啓直前になって両陛下の御名を出して批判するというのは、お門違いも甚だしいものです。

記者会見場というのは当然社の看板を背負ってやり取りする公的な場です。この記者の意見イコール毎日新聞社の意見であると断じられて当然なわけです。
この件に関しては毎日新聞社の佐賀支局長が該当する記者を口頭注意したそうですが、本社は知らぬ存ぜぬを決め込んだままでした。
まったく、こんなふざけた質問にまともに答えねばならなかった古川県知事に心底同情する次第です。

これで終わってしまうのも何とも後味が悪いので、最後にこの記者の思想をあっさりひっくり返してしまう映像を紹介して記事を終えることにしましょう。
この佐賀県行幸啓に際して、迎える佐賀県民がどのような歓迎をしたかがよく判る映像です。
熱烈に歓んでお迎えするのはもちろんですが、群衆の誰かが自然発生的に斉唱する君が代のメロディに、移動のおみ足を留めになり、じっと聞き入られる今上陛下のお姿。また、その際にそっと今上陛下の後ろ側にお周りになる皇后陛下の奥ゆかしさが収められています。

参考:宮内庁(http://www.kunaicho.go.jp/)
佐賀県 こちら知事室です(http://www.saga-chiji.jp/kaiken/)
社団法人全国豊かな海づくり推進協会(http://www.yutakanaumi.jp/)
海フェスタおのみち〜海の祭典2012尾道・福山・三原〜(http://umifesta-onomichi.jp/)


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