タイで愛される魚
魚類学者である今上陛下。有名なエピソードのひとつにプラー・ニンという魚の話があります。
日本名「イズミダイ」または「チカダイ」とも呼ばれるこの魚、あまり耳馴染みがない名前ですが、「ティラピア(ナイルティラピア)」の名でいろんなところに流通しています。外来種で太平洋戦争後の食糧難の時代には貴重な蛋白源として重宝されました。
見た目はクロダイのようであり、味も鯛の身によく似ていますが、海水では育ちません。淡水魚なのです。
時は昭和39年(1964年)、東海道新幹線が開通し、東京オリンピックが行われた年の暮れのこと。当時皇太子だった今上陛下が美智子妃殿下とともにタイをご訪問されました。
当時のタイ国民は戦後混乱期の日本と同様に蛋白質不足に陥っていて、その解決策を魚類に求めていました。陛下は魚の養殖試験場を訪れになり、タイ国王ラーマ9世(プミポン国王)とも会談され、当時養殖研究されていた品種ではなく、ティラピアを育ててみてはどうかとご提案されます。
▲スズキ目シクリッド科に属する淡水魚
タイから戻られた陛下は赤坂御用池で育てられたティラピアを50匹、翌年の春にタイへ寄贈されました。ラーマ9世は宮殿の池でそれらを飼育します。
ティラピアの特長である飼育しやすさと旺盛な繁殖力で、またたく間に稚魚を増やし、1万匹もの数が養殖場に運ばれました。
結果、ティラピアはタイを代表する魚にまで浸透し、国民の栄養状態も改善。華僑により仁魚という漢字がつけられ、タイ語でもプラー・ニン(ปลานิล)と呼ばれて親しまれています。
「仁魚」の「仁」は陛下の明仁の名からとったもので、「プラー・ニン」の「ニン」もやはり仁の字から来ています。ちなみにプラーとはタイ語で魚のことです。
タイ国民の栄養状況を改善したティラピアは、その後も活発に養殖が進み、昭和48年(1973年)には非常事態宣言が出されるほどの飢饉がバングラデシュで発生した際にもタイからティラピアが50万匹贈られました。
また品種改良もすすみ、ティラピアを交配させた「プラー・タプティム」という赤魚もタイでは人気を博しています。
いまやタイの輸出品目にまで成長したティラピアの養殖。そのきっかけを作ったのが今上陛下だったのですね。
参考:外務省(http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/thailand/)
日本が好きなだけなんだよ(http://koramu2.blog59.fc2.com/)
バンコク週報(http://www.bangkokshuho.com/)
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